第1章 まず知ってほしいこと ~患者さんの疑問に答える~
1 もう治らないんですか?
医者の“治る見込みが低い”と言う意味
主治医に「あなたのがんは手術ができない」とか「治る見込みが低い」と言われたら、ほとんどの患者さんはひどく落ち込んでしまうと思います。一方、糖尿病や高血圧などの生活習慣病は文字通り生活習慣の乱れから発症することがほとんどで、治ることが難しい病気です。
しかし、糖尿病と言われてもがんと伝えられるより落ち込まないのはなぜでしょうか。“手術できない、治る見込みがない=死ぬ”と連想するのではないでしょうか。
手術できない場合、また術後に再発して根治手術が難しい場合、抗がん剤治療で治癒が難しい腫瘍と治癒が期待できる腫瘍に分けて考える必要があります。治癒が期待できるなら、もちろん治癒を目指して抗がん剤治療を行います。
また、抗がん剤治療で腫瘍を縮小させて治癒切除を目指す場合もあります。けれど、抗がん剤治療で治癒が期待できないのであれば、それからの時間をその患者さんらしく過ごしてもらうことが目標になります。
しかしここで大事なことは、治癒が期待できる腫瘍なら長生きで、治癒が難しい腫瘍なら長生きできないという訳ではないことです。
がんによって予後は大きく違う
国立がん研究センターが日本におけるがん患者さんの統計を毎年発表しています1)。数の発表を、図にしてみます(図2)。
■は2018年の罹患患者数、□は2019年の死亡患者数を表しています。毎年多くの患者さんが大腸がん、胃がん、乳がん、前立腺がんの疾患と診断されます。多くの患者さんは手術可能です。
しかし、初発時に手術できないと判断される場合、または手術後の再発で更なる手術ができない場合に抗がん剤治療となります。大腸がん・胃がん・乳がん・前立腺がんは抗がん剤で治癒を期待できないがんの仲間です。
そのなかで、大腸がん・胃がんは年間で罹患する方が12万人以上、亡くなる方も4万人はいます。一方、乳がんと前立腺がんは年間で罹患する方が8万人以上、亡くなる方は2万人以下です。
この違いの理由の一つは、乳がん・前立腺がんの抗がん剤治療の効果が、大腸がん・胃がんより良いこと、またホルモン剤などのゆるやかな治療で病状のコントロールができる場合が多いことなどが考えられます。
一方、白血病と悪性リンパ腫は抗がん剤で治癒が期待できる腫瘍の仲間です。ですから、治癒を目指した抗がん剤を行います。年間罹患数は多くはありませんが、年間で亡くなる方は罹患数の半数近くなるのです。
参考文献
1)がん情報サービス・最新がん統計(閲覧日:2023年5月1日)https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
【前回の記事を読む】「もう治らないってことですか?」がんを申告する瞬間、医者は患者は患者に何を伝えるのか