白い立て看板に面会待合所とあって、矢印がある。その下の植え込みの根方に、肥えた白猫が日向ぼっこをしていた。矢印の方へ進むと塀沿いに独立した小さな小屋があった。隣には庇だけ設けた喫煙所がある。

そこに先客がいた。鮮やかなピンクの上着に同色のズボン、といった出で立ちの初老の女が、足を投げ出してベンチに惚(ほう)けたように腰かけている。大きなつばの帽子は、完璧な日除けになっていた。

親父が「ちょっと手続きしてくるから」と奥の建物の方へ歩いて行った。俺と優子はなんとなく取り残された気分になり、女を避けて薄暗い小屋の中に入った。外の陽だまりと小屋の中とでは、まるで気温が違う。寒々とした小屋の中のベンチにもう一匹、白猫が背中を丸めていた。こっちもそうとうのデブ猫だ。

「なんだかめちゃくちゃのどかだなぁ」と今度は素直に口にすると、優子がへんに落ち着き払った顔つきで、口元だけ歪めて小さく笑った。俺の緊張を感じ取って小ばかにしている嗤いに見えてしまい、腹が立ってきた。

優子は結婚して所帯を持ってからこっち、ときどきふっと真意を測りかねるような表情をするときがある。娘から女になったのだ、と考えれば据わりがいいが、俺から見ればもう単純に腹立たしく、しかも少しばかり薄気味悪い。

俺と優子は猫を挟んでベンチに腰かけた。優子が頭をなでても猫はぴくりともしなかったが、俺が尻を突いたら、シュッと蛇みたいな声を出してベンチから飛び降り、小屋の外に出て行ってしまった。

「ね、あの人、キャディさんだね、きっと」妹はいったい誰のことを言っているのか。

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