劉生 ―春―
本当に、子供の頃からすぐ泣く奴だった。嬉しくても悲しくても、気まり悪くても泣いた。こんなんであとふた月もしないうちに母親になるんだから信じられない。
ま、産むだけなら資格がなくても産めるからな、と思うと、これから会いにいく女のことが急に心の中で生々しく存在を増していくような気がして、思わず「うるさいんだよ、ピーピー泣くな!」と妹を叱りつけた。
タクシーは呆れるほどすぐにやってきた。まるで俺たちの動向を遠くで監視していて、それ出動、とやってきたような早さだった。近くにタクシー会社の車庫でもあるんだろう。
車に乗り込んでものの数分で、それらしき塀が畑地越しに見えてきた。大人の背丈ほどの金網が伸び、その内側に数メートルの緩衝地帯を設けて、金属板を打ち付けたようなそう高くもない塀が続いている。塀の向こうに幾棟かの低層の建物が見える。田舎とはいえ、ずいぶんと贅沢な敷地の使い方だ。
ふいに、十年ほど前、小菅駅のホームから東京拘置所のビルを仰ぎ見たときのことが蘇った。
その近未来の要塞のような建物は、圧倒的なスケールで十五の俺を打ちのめした。悪いことをした奴らがなんでこんなすげぇビルに住めるんだ? 第一印象はそれだった。