これに対し、コミュニケーション能力や感情のコントロール能力であるEQの能力はIQと違って多くの情報記憶量や高度な情報処理能力を必要としないので(どちらかというと反射的な能力なので)、また、しょっちゅう他人とコミュニケーションをとることで知らず知らずのうちに訓練もできているので、長期間保たれます。ですから、このグラフのように能力の逆転現象が起きるようになるのです。

すでにこの章だけで、結論は出てしまったかもしれません。ただ、それではつまらないので、EQについて、また認知症について具体的な内容をお示ししながら、また実際の臨床の現場で出会った場面をご紹介しながら、この考え方をイメージしやすくしてみたいと思います。

感情が人にとって重要であることは古くから理解されていました。心理学の分野では、感情とは何かという定義に関する考察や実証分析など、様々な研究が行われてきました。

しかし「感情そのものをうまく利用できることは能力である」という視点からのアプローチはほとんど存在しておらず、かつ「EQは感情と思考(IQ)を統合する」働きがあるというサロベイ、メイヤー両博士のEQ理論はまったく新しい考え方として世界の心理学界に驚きを持って迎えられ、社会に浸透していきました。

 

わたしはEQを「感情をうまく使う能力」と表現していますが、EQ理論では「EQ=感情能力(Emotional Intelligence)」を「感情をうまく管理したり、利用する能力」と定義しています。わたしたちの行動は感情の影響を受けています。悲しいと泣き、うれしいと笑い、怒ると眉間にしわができて表情が険しくなります。緊張すると手に汗を握り、驚くと冷や汗をかき、興奮すると血圧が上昇します。そんな行動や生理現象に影響を与えているのが感情であり、その感情を管理、利用する能力がEQであるという定義です。

(『EQトレーニング』高山 直著 日経文庫 2020年)

【前回の記事を読む】理性に頼ってばかりでは問題は解決しない 理性から離れた認知症の治療~人生の最後まで感情と向き合う~

 

【イチオシ記事】治療で言葉がうまく出てこない夫。彼が今どう思っているのかを知りたくて…

【注目記事】カプセルホテルで産まれた命。泣き声を止めようと、その喉に…。