「課長、俺達の残業時間を削ろうとしていると補佐から聞いたけど、なんでそんなことするんですか?」
加藤が佐伯を睨みつける。
「削る? 削るんじゃなくて、君達の残業時間を検証するんだ。他の係から比べると君達の残業時間がずば抜けている。だから強行犯係が今どんな事件を抱えていて、進捗状況はどうなのかを知りたい」
「何言ってんだよ。どうせ、副署長あたりから残業時間を減らせって言われたんでしょ? 課長は本当に上に弱いな」
加藤は部下の顔を見渡し、それに呼応して刑事達がうすら笑いを浮かべた。
「ここで押し問答をしていても埒が明かない。残業時間で何を扱っていたのかその証を持ってきてくれ。それで判断する」
佐伯は席に座ると、加藤が刑事課にいる捜査員に向かって騒ぎ出した。
「おいみんな! うちの課長が残業するなってよ! わかったよ、今後一切残業しないよ。定時キッカリに帰ってやるよ。でも困るのはあんただ。何が起きてもしらねえからな!」
「誰が残業するなって言った!」
佐伯が反論したが加藤は聞く耳を持たず、部下とともに自席に戻った。
「おっ、もうすぐ退庁時間だ。みんな、帰るぞ!」
加藤以下強行犯係の刑事達は自席に戻ると次々とパソコンの電源を落とし、退庁準備をし始めた。
「加藤係長! まだ話は終わってない、こっちにこい!」
「何キレてんだよ。こっちは退庁準備で忙しいんだから話があるならそっちから来いよ」
「なんだと!」
佐伯は席を立ったが、ぐっとこらえて再び席に座り直した。それを見た加藤が笑った。
「なんだ、根性ねぇな。でも仕方がねえか。しょせんは警務畑だしな。じゃ課長、お先」
そう言うと加藤は係の者を引き連れて刑事課を出て行った。
【前回の記事を読む】飲みっぷりのいい女性部下は刑事課を変えようという課長の思いに「みかけによらず熱い人なんですね」と驚き…