下を向き肩を落としている有田を見るに見かねて佐伯が自席に呼びつけた。

「はい課長」

「気にするな。君は私が守ってあげるから安心して仕事に邁進してくれ」

「はい! 頑張ります!」

有田の表情に明るさが戻った。

「課長、今月の刑事課員の残業時間です。ご確認願います」警務係員が佐伯に残業時間の集計表を渡す。

「なんだこれは。補佐、ちょっと来てくれ」佐伯は城島を呼びつけて集計表をみせた。

「これが何か?」

「何かじゃないだろ。見てみろ、強行犯係の残業時間を。加藤は九五時間、他の係員も八〇時間を超えているじゃないか」

「いや~、強行は色々と忙しいですから仕方がないのではないでしょうか」

「忙しい? 今ホシを一本も持ってないじゃないか。殺人事件の捜査本部にでも従事している気分でいるんじゃないのか?」

「しかし課長、みんな一生懸命やっているのに私の口から残業時間を抑えろとは言えませんよ」

「そうだろうな。お前も残業手当もらっているからな。

では仕方がない。強行犯係員に、これだけ残業して成果を上げたという説明資料を私に提出するよう指示しておけ。

私が納得しない限り、来月は残業時間ゼロにする」

「ちょっ、ちょっとそれは厳しいのでは」

「だから説明資料を提出しろって言ってるだろ? そもそも残業してもいいと許可するのはこの私だぞ? みんなナアナアで適当に残業時間つけてるようだが、私は残業を許可した覚えはない」

「はい、わかりました。では早速強行にはそのように指示をします」城島は佐伯に頭を下げ、自席に戻った。

この馬鹿は何を血迷っているんだ。私の口から言えない? そこを言うのがお前の仕事だろうが。佐伯はため息をつき、席に座った。

その日の夕方、佐伯は署内会議から戻り自席に戻ると、加藤以下、強行犯の捜査員が課長席に集まってきた。