第4章 アルミ鋳物の創業
松葉工業の創業期
ちょうど、松葉がアルミサッシの会社を退職して、松葉工業に入社した頃だった。水道の量水器のボックスを作ってみたらどうか、という提案があった。一軒に1個必ず使われる製品だ、強度もさほど必要ではないので、これは売れるのではないかと思った。
住宅ブームに乗って売れる筈だ、みんなで考えると、良い提案が出てくるものだと感心した。量水器は市の指定商品になっているので、先ず、市の指定メーカーにならなければならない。
早速、松葉は市の水道局の課長を訪ねてみた。「へぇ……。都城でこんなものができるのか」と言うと、職員が集まってきた。
課長は、「検討してみます」とぶっきらぼうに言って奥に引っ込んだ。
帰ろうとして階段のところまで来ると、後ろから呼ばれる声がした。中学の後輩の山下だった。山下が水道局に勤めていることをそのとき知った。山下は、
「松葉さん、ちょっと」
「松葉さん、この話既に市長に話しているでしょう。課長が怒っていましたよ」
「えっ、誰が、何で」
松葉は課長が何で怒っていたか、そして誰が市長に頼んだか、皆目見当がつかなかった。
「市長に頼んだのは松葉社長さんではないですか。許認可権は水道局にあるのだ、と課長は言っていました」
市長に頼んだとは、けしからん。政治屋の出る幕ではない。先ずは、俺だろう、ということだった。
「そうか……、ありがとう、山下君また何かあったら教えてくれ」と、お礼を言ってその場をあとにした。