昼過ぎに、娘から携帯に七回電話がかかってきた。生憎、電話に出ることができなかったが、電話がかかってきたことは知っていた。七回も電話してくるようだから、何かよほど急ぎの用なのであろう。こちらからかけ直したところ、開口一番に、
「ママが倒れた、救急車で病院に運ばれた」
気が動転した。こんなに早くがんが進行するとは思ってもみなかった。今朝は、あんなに元気だったのに! 正直、死が頭をよぎった。
仕事の途中であったが、直ぐに病院に駆けつけた。義姉も来ていた。看護師さんに病状を尋ねると、
「軽い熱中症です。点滴して、今は大丈夫です」
私が早合点していたのだ。千恵はあの暑い最中、銀座のパレードをずっと見ていたため、熱中症になり救急車で運ばれたのだ。何とも人騒がせな話だ。でも、大事に至らなくて良かった。
千恵と娘と一緒に帰宅し、夕飯を食べながら笑い話になった。夜のニュースでも、今日は暑い日で多くの人が熱中症で倒れ、病院に搬送されたと話をしていた。銀座のパレードで、熱中症になり、救急車が到着する場面がTVで映し出され、千恵は、
「あれ、私。ほら、あそこで倒れているの私だよ。救急車に乗ったのは二回目。一回目は覚えていないけど……」
私は、楽しそうに話をしている千恵を見て、少し意地悪く、
「ちょっと待って、熱中症で倒れてTVに出て、喜んでいる人、いないだろう。どれだけ心配したと思ったんだ」
「彩ちゃんから何回も電話があり、倒れたって言うから、とっても心配したけど、損した」
その日の夕食は、その話で持ち切りだった。でも、本当にそれだけで良かった。翌日に会社で、上司から妻の容態を聞かれ、返答した際、少し笑われた。
【前回の記事を読む】抗がん剤投与のため体内にポートを埋め込んだ妻。空港のセキュリティーゲートも問題なし!二人で香港・マカオ旅行へ
本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。