忍び寄る病魔
新居は、床や壁が白色系、ドアは黒褐色系だ。新居に引っ越しする際、使えそうな家具は持ってきた。そぐわないものもあった。千恵は、
「この家って、やっぱり、黒色系の家具が合うよね?」
家具を買い替えたいのが分かっていたが、
「そうだね」
と気のない返事をした。千恵は、黒色系の家具で統一したいようだ。
次の週末、大手の家具屋にいた。新婚の時ほどではないが、新居を決め、部屋の間取りや壁の色、床の色に合わせて、いろいろな家具や電化製品を揃えることは楽しい。
もし、千恵ががんになっていなかったらどれほど楽しかったことだろう。一緒に住み始める前、家具屋を回っていろいろと思いを巡らせていた。あのころが懐かしい。
電話台、お客様用のティーカップ、ワイングラスを入れるガラスの食器棚、三人掛け用のソファ、テレビ台、それ以外にも玄関用や風呂場用のマット等を購入し、黒で統一した。
「ほらっ、ちょっといい感じじゃない?」と千恵は言った。
「そうだね、落ち着く感じがするね」
千恵はこの先、家にいる時間が長くなるだろう。少しでも、部屋の雰囲気を変えて生活できれば、心の安らぎになるかもしれない。
私は、千恵ががんを患い、この先どのくらい生きられるか分からない。できることは何でもしよう。できるかもしれないことを精一杯の理由を見つけ、できないと言わないようにしようと誓った。