「君の妹だってことは一目瞭然だったからさ。つい」

その言葉に、扉に向かってよく通る声で「お姉ちゃん」と話しかける妹の姿を想起する。

「で」

「え?」

「君の妹、何なの?」

渋い表情を目の当たりにして、ピンと来た。

「もしかして、あの子のペースに巻き込まれた感じ?」

悪魔は答えない。が、完全に図星を突かれた反応だった。

「なるほどね」

確かに彼女は悪魔の手には負えないかもしれない。無欲で無邪気で天真爛漫な二十五歳、それが神野みらいである。

「いい子なの。ただ純粋に、いい子」

「そんな人間がいてたまるか」

不服そうな悪魔の気も知らず、妹がひょっこりと顔を出す。こんないかにも密談の最中に、他意なく口を挟めるのも彼女のすごいところだ。

「ねえ、お姉ちゃんはシュークリーム食べるよね?」

「シュークリーム?」

「あたし、ナツメくんがいるって知らなくて。二つしかないからもう一つ買ってこようかと思ったんだけど―」

「大丈夫だって言ったろ?」

みらいの言葉を遮った悪魔は、いつにも増して薄っぺらい、その場しのぎの笑みを浮かべていた。

「甘いものは苦手なんだ」

おそらく嘘ではないのだろう。甘いものどころか、彼が何か食しているところを見たことがない。その点はずっと触れずにきたが、一人のけ者にするのも不自然なので三人分のコーヒーを淹れてみることにした。

幸せそうにシュークリームを頬張る妹と、案の定コーヒーに興味を示さない悪魔と、マグカップを手慰みにしている私でローテーブルを囲む。

相変わらず空気の読めないみらいが、真っ先に口を開いた。

「お姉ちゃん、彼氏ができたなら教えといてよ。ホントびっくりしたんだから」

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