人生の切り売り
三 錯誤
「ごめん」
彼氏じゃないんだ。
「あ、でもお姉ちゃんって別に秘密主義ではないんだっけ?」
「え?」
「おしゃべりが嫌いだったらあんなに小説書けないでしょうって言われて、なんか目から鱗だった」
「言われたって、誰に?」
「ほら。お姉ちゃんの同級生の、キラキラした可愛い感じの人」
「誰?」
私自身おしゃべりだと藤島に指摘された時は目から鱗だった。それを言い当てる同級生とは、いったい……?
「お姉ちゃんの友達なんだからだいたい分かるでしょう」
分かるわけがない。私は妹みたいに、同級生を素直に友達と呼べるような学校生活を送ってはいなかった。そもそも何故みらいが私の同級生と会っているのか―。
と、突っ込む隙を彼女は与えてはくれなかった。
「そうだ小説!」
「はい?」
「お姉ちゃんの小説、読んだよ。出版したことすぐに教えてくれないから、ちょっと遅くなったけど」
彼女は鞄から私の小説を取り出して、嬉しそうに掲げてみせた。
「今めっちゃ売れてるんだってね。妹としても鼻が高いわ」
実は藤島から重版の話も来ていた。この勢いに乗じて、埃を被っていた過去の作品まで売り出せないかと考えているらしい。私の担当編集者は急にたくましさがすぎる。
「……どうだった?」
「面白かったよ」
屈託のない笑顔がそう告げた。
「すごいよね、ゼロからお話を作っちゃうんだから」
「別に、ゼロではないんだけど」
私の場合は特に人生の切り売りが酷い。それでもフィクションという建前でしか文章が書けないのは……どうしてだろう?