「都合よく物語にするために、ネタを継ぎ接(は)ぎしてるんだよ」
「だとしても、そういうネタ? 見つけてくるのもすごいと思う。あたし何にも考えずに生きてるからさ」
「ホント鈍感なんだね」
黙って聞いていた悪魔が、悪い顔して口を挟んだ。
「見せてあげたら? 火傷の痕」
みらいがキョトンとした顔でこちらを見つめる。
「……火傷って、もしかしてあれ実話なの?」
「えっと、うん」
私が頷くと、更に予想外の要求が飛んでくる。
「見せて」
そんなつもりはなかった。けれども、悪魔のものか妹のものか分からない圧に押され、気付けばブラウスのホックを外して襟ぐりを広げている。
後ろへ回ったみらいは中を覗いて、しばし黙り込んだ。
「でもほら、昔のことだから―」
「ありがとう」
彼女は躊躇うことなく抱き着いてきた。
「う、うん?」
「大変だったよね。あたし読んでるだけですごく痛そうだったもん」
「いや、痛いとか熱いとかリアルな感覚はさすがに覚えてないんだけど」
「そうなの? だとしたらめっちゃ文章上手くない?」
さすが我が妹、そう来るか。
「早く治るといいね」
みらいが優しく私の肩を撫でる。不思議と悪くない気分だった。
「二十年以上前だよ。もう治らないって」
「そんなの分からないじゃん」
「まあ」
少なくともこの傷痕を治せる男が存在することを、私は知っている。目の前の抱擁を、冷めた顔して眺めているような奴だけど。
「やっぱりお姉ちゃんはすごいな」
「……みらいはさ、ネタにされるの嫌じゃない?」
間髪を入れずに彼女は答えた。
「全然」
「いいの?」
「だって小説って、結局フィクションでしょう?」