人生の切り売り

三 錯誤

「じゃあ、どういう関係?」

「プラトニックな関係、ってやつですか?」

「そういうことじゃなくて」

死後に魂を明け渡すのだから、本当の意味で精神的な関係かもしれない。と、説明するわけにもいかないが。

「出会いは?」

「気付いたら目の前にいました」

「あのね」

嘘はついていないのだが、思い切り溜め息をつかれた。

「まあいいわ。新作の方は? どこまで実話なの?」

「はい?」

唐突な矛先の変更に、私は言葉を失う。

「前の失恋は話に聞いたそのままだったし、妹さんがいるってことも聞き覚えがある。夏でも長袖なのは日焼けか冷房対策だと思ってたけど、全然違う理由が出てきたからびっくりしたわ」

「私、そんなに藤島さんにペラペラ話してましたか?」

「ええ。あなた自分の話をするの大好きだし、持ってくるプロットもいつもそんな感じだったじゃない」

言われてみれば。

「今日は私の方から問い詰めちゃったけど、売れない小説家の自分語りを延々と聞かされるこっちの身にもなってちょうだい。とか、少し前まで思ってたわ」

「すいません」

「いいのよ。小説家は多かれ少なかれ人生の切り売りをしているものだし、それが文章になった時にここまで読めるものになると見抜けなかった私の失態でもあるんだから」