内部は正直暗くてよく覚えていないのだが、一つ一つの塔には聖人が立っており、最も上はマリア像なのだとの説明を受けた。キリストではなくマリア像…?聖母を祀った建造物自体、当時の私には一瞬ピンと来なかった。

振り返ってみれば、イタリアにはミラノのドゥオーモだけでなく聖母を祀った教会が多数存在する。マリアを崇拝するのはカトリックの傾向らしいが、処女の状態で子を産んだことがどれほど尊いことなのか。イタリア男にはマザコンが多いという話もツアーバスの中で聞いていたが、マリア崇拝とどのような関係があるのか。

マリア崇拝の影響ゆえ、女性の方がパワーバランスが上なのか。キリスト教を表す三位一体という言葉と、そこに加わるマリア。その答えらしい答えは、大人になってもう少し勉強が好きになってから知っていくことになる。

ドゥオーモの流れで徒歩でアーケードに入った時、私は何を思ったのだろうか。当時、おしゃれには興味はあったものの、何を着れば自分らしくいられるのかが分からず、そして世界的ラグジュアリーブランドに関する知識は皆無だった。

アーケードの中にはグッチやプラダといった老舗ブランドが軒を連ねていたが、その時私は今まで見てきた都市とミラノはかなり毛色が違うくらいにしか感じていなかったのかもしれない。

アーケードの中も芸術的なのは間違いないが、非常に近代的で少し遠くを見ると鉄筋コンクリート製のビルも所々に見える。前年日本でも公開された「プラダを着た悪魔」には全く興味を示さなかったし、ミラノがなぜファッション流行地の一つなのかもその時は疑問に思わなかった。

ただ、「もうすぐこの旅は終わる」とか、今まで見てきた観光地を振り返りながら感慨にふけっていて、浅はかにもミラノの魅力はそれほど頭に入っていなかった。

サンタ・マリア・デッレ・グラッツェ教会でダ・ヴィンチの「最後の晩餐」をこの目で見た時は例外だったが、夕方有名オペラの数々の初上映舞台となったスカラ座をバスから見た時はなおさら今までのことを思い返していた。

自分の目で物事と向かい合う力がもっと自分にあれば、どれほどもっとミラノ観光を有意義なものにできただろうか。だがあの時持っていた視点も、ある意味自分で目の前にあるものを見て、知って、感じる子ども時代の大事なものだったのではないか。

あの時があったからこそ、今言えること、新しく作られていく観点も現に増えているのだから。

【前回の記事を読む】不朽の愛の名作『ロミオとジュリエット』の舞台ヴェローナ 「どうしてあなたはロミオなの」と謳ったバルコニーを眺める。

次回更新は8月26日(月)、11時の予定です。

 

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