私は、鼻につく言い方だった千恵を叱ろうかと悩んだがやめた。中学一年生だった娘はこの言葉の意味を知っていただろうか?

花火を見ながら、千恵の人生が花火のように一瞬で消えないことを願っていた。

翌日、娘と私だけでラフティングを行った。千恵は、海外でラフティングをやったことがあり、楽しかったので私たちに提案してくれたのだ。

ラフティングの途中で、引率者の方から、

「はい、それでは皆さん。ここから川底に飛び込んでください。飛び込み方は自由です。全員がやらないと帰れませんよ」

と言われ、娘は私を見ながら、

「私もやるの? パパ怖い」

「彩ちゃん、パパも怖い」

他の参加者は全員二十代以上のようだが、娘はまだ中学一年生だ。飛び込み場所から水面までの高さは五メートルくらいはありそうだ。

「大丈夫、一瞬で終わるし、痛いことは何もないから」

となだめて、娘を先に飛び込ませた。娘は、空中で後方回転しながら水面に潜っていった。私も、娘に負けまいと前方回転して飛び込んだ。娘はガッツポーズし、

「ママに見ていてほしかった」

とぼそっと口にした。

「ママが元気になったら、また皆で、ラフティングしようね」

娘は、にっこりと微笑んでいた。今でもテレビ台には、千恵が写っていないラフティングの写真が飾られている。つかの間の旅行が終わり、また自宅と病院の往復生活が始まった。

【前回の記事を読む】抗がん剤の副作用で頭髪の脱毛に。ウイッグを付けるようになり、娘のママ友と会うのを避けるようになった妻

次回更新は8月28日(水)、16時の予定です。

 

【イチオシ記事】DV夫から長男と次男の奪還計画を実行! 夫は「不法侵入の妻を捕まえてくれ」と通報

【注目記事】離婚した妻と娘と久しぶりに再会。元妻から「大事な話があるの」