忍び寄る病魔
後日、自宅に荷物が届いた。姉からだ。中身はサプリメントだ。姉は、化粧品メーカーの販売員をしていた。高価なサプリメントが半年分入っていた。荷物と一緒に手紙が入っていた。手紙の文章は、
「奥さんに飲ませてあげてください。免疫力が向上するサプリメントで、風邪や疲れた時に飲むと効果があります。私もたまに飲用しています」と書かれていた。
姉からもらったサプリメントについて、飲用するか千恵は悩んでいた。抗がん剤との相性があると思ったからだ。担当医から、
「病状が良くなることも悪くなることもあります。良くなれはいいのですが、悪くなった場合、病院側としてどんな治療を施していいのか分からないので、控えてください」とのことだった。
姉からもらったサプリメントは飲用せず、娘や私に熱が出た時くらいにしか使われることはなかった。
抗がん剤の副作用のせいで体調が悪い日が多くなり、外出の回数も減った。それでも、娘の中学合格と今後、長期間にわたると思われる闘病生活のために、その年の夏に家族三人で北海道に行くことにした。旅行の計画を立てるのは千恵の役目だ。計画を立てている時の千恵は楽しそうだ。
出発の朝、
「病院と買い物以外で外出するのは、ほんと久しぶり」
病気が完治していたらもっと楽しかっただろう。千恵は再発したショックを隠していた。千歳空港に到着した。
「久しぶりの家族旅行だね、彩ちゃんも受験だったし、ママもいろいろ大変だったし……」
「北海道をレンタカーでドライブするのもいいね」
「今回の旅行の目的は、“癒やし”にしよう」
と言って、私は明るく振る舞った。