千恵の体調はあまり良くないように見えたが、久しぶりに自宅を離れ、北の爽やかな風が気分転換になっているように感じられた。

宿泊場所に辿り着いた。千恵は、

「えっ、ここに泊まるの? なんか別荘みたい」

と言った。私は、

「自分で計画したんだから、ネットで外観くらい見てるでしょ?」

と言い返した。千恵も娘も嬉しそうだった。ひとときでも現実を忘れ、楽しい時間を過ごしてほしい。

翌朝、宿泊した場所から車で十分ほどした場所にある公園で、千恵と娘は気球に乗った。気球と言っても、地面の固定場所に気球を紐で結んでいるため高く上がらないようになっている。高さにして十メートルくらいだろうか?二人乗るのがやっとの大きさだ。

千恵は手術後、ほとんど外出していなかったため、外に出て気球に乗ることをとても楽しみにしていた。千恵は、

「えっ? これが気球? 想像していたのと全然違う!」

と文句を言った。私と付き合う前に、海外で気球に乗ったことがあり、百メートル程度の高さまで上がったと言っていた。パンフレットで見たものとは随分違う。あまり高く上がらない気球で、少し残念そうだった。それでも、

「パパ、写真、写真、写真撮って!」

と言って、楽しそうに笑っていた。

その夜、海鮮バーベキューでお腹を満たした後に花火をした。千恵は、

「美人薄命ね」

と言った。