忍び寄る病魔

抗がん剤投与のために病院通いが続いた。体調が良い日は月に五、六日程度で、食べたい物も口にできない。いざ、食欲が出てきた時でも、副作用で口内炎になり、固形物を食べられない時もあった。

口内炎になっていない時は、よく柑橘系の果物を買って食した。念のため、抗がん剤を投与している時に、看護師さんに

「柑橘系の果物が好きでよく食べていますが大丈夫ですよね?」と聞いたところ、

「抗がん剤治療をやっている時は、やめた方がいいわよ」

と言われたそうだ。それから千恵は食べなくなった。千恵が好きだった食べ物がことごとく奪われていくのが辛かった。神様が与えた試練なのか?

毎週定期的に血液検査があった。この血液検査をするための注射が痛いと言っていた。看護師から検査項目について説明があった。

「この血液検査は、血液中に含まれる抗原を調べる検査で、乳がんの可能性、特に再発や転移の有無の可能性を知るために行われます」

「この数値が高ければ悪くなっている証拠ですよ」

と教えてくれた。

千恵と私はいつもビクビクどきどきしながら、この数値を見た。「値が小さくなってる!」と言っては大喜びし「値が大きくなってる!」と言っては嘆いた。死へのカウントダウンのバロメーターだった。

私は、がんが完治した人や再発した人の体験談をインターネットで検索してみた。そこには、がんの手術を行った後、再発する人は、免疫力が足りないと書かれていた。私は千恵に、

「必ず、元気になるから、絶対に治るから。という強い気持ちを持ってこれから生きていこう」

と励ました。