もうだめだ、治らないと思う気持ちが免疫力を低下させるらしい。私は、この言葉を信じ、今後、どのような状況になろうとも、気持ちの面で負けないようにして生きていこうと自分自身に何度も言い聞かせた。千恵もそう信じてくれた。

今まで些細なことでよく喧嘩したり、お互い強情な性格から口を利かなかったこともあった。今は違う。がんという大病を克服するために、心が通い合い、一つになっている。

娘が通っていた学校は給食がなく、お弁当を持参することになっていた。千恵は、ご飯の炊き立ての臭いが特に気になるようで、臭いを嗅いだだけで何回も吐き気を催すほどだった。千恵は、

「一人分作るのも二人分作るのも、手間は一緒だから」

と言って、私のお弁当も作ってくれるようになった。二人分のお弁当を作る際、あれこれ指示を受けて手伝った。どんなことでもいいから傍にいて役に立ちたかった。今では、手のかからないものであれば、作ることができるようになった。

会社の食堂でお弁当を食べているのを同僚や知人が見ると、

「愛妻弁当か、いいな」

「娘がお弁当で一緒に作っている。食費を節約できるし」

と強がって言ってみたものの、いつの日か、お弁当が作れなくなる日が必ず来る。私は、その日が来るまで少しだけ早起きし、千恵と一緒に炊き立てのご飯の臭いを嗅いでおこうと心に決めた。

千恵は、地元の娘のママ友と会うのを極力避けた。以前はそんなことはなかった。