忍び寄る病魔

千恵が病気になる前、私のゴルフ仲間だった方の奥さんが、肺がんを患ったご主人のために、新薬があるからといってご主人と二人の子供をおいて、一人で北海道まで出かけたと聞いた。

私はその話を聞いた時、私は、愛する人のために何ができるのだろうと思った。

私が中学生の時、家族全員であるTVドラマを見ていた。一人娘が白血病になってしまい、母親は夫と自分とは血の繋がっていない娘を残し、四国遍路八十八か所を回る場面があった。

私は、一番後ろに席を取り、涙声が出ないようずっと我慢していた、その場面を今でも鮮明に覚えている。私は千恵に何もしてあげることはできない。

何かにすがりたいとの一心で四国遍路を巡ることに決めた。

私は、その年の夏、千恵に、

「実家で用ができてしまったので、三日間家を空けます」

とだけ言って、四国遍路巡りに出かけた。神に祈るしか思いつかなかった。

四国遍路巡りが始まった。三日しか時間が取れなかったため、全部を回ることはできない。その日は暑い日で、歩いている人はほとんど見かけない。