少し栗色がかった髪、白目がちで切れ長の目、睫毛のカール、どれも変わらない中で目元がメークによって強調されている。あの頃より少し頬がそげている。それも髪をきっちりとまとめているせいかもしれない。

波立っていた湖面が静まり、影を定かにしていくように、違和感があった印象が典子の中で昔のマリに、ゆっくりと重なっていった。先刻からの動悸は次第に治まり、喜びが胸に満ちてくるのを感じた。

―― 私がこんな生き方をしているのをすぐに理解できなくてもいいの。あなたとの間には、信じられないほどの空白ができてしまったのだもの。その間にはきっといろんな事があったはずよ。それは……私にも。でも過去の事はもういいの―― 典子は心の中で念じた。

―― 今、私はきちんと、マリを茉莉として、私の薔薇園に迎え入れられる―― それは茉莉の消息を知ってから、自分に言い聞かせ、誓ってきた事なのだ。

茉莉がゆっくりと典子に目を戻した。やがてその表情が何かを言おうとするように動きかけた。咄嗟に典子は言った。

「さあ、家の方にいらして、ここで立ち話もおかしいもの」ずうっと強張らせていた体をさっと回し、典子は家の方を示した。

「それはそうと」、スーツケースに手を掛けようとして、つと茉莉は向き直った。典子を見、言った。

「泊めていただけるという事かしら?」

瞬時には言われた事が理解できなかった。あの頃もわざとそうしたように、心にもない冗談なのかと思った。しかし、その眼は少しも笑みを含んでいなかった。

―― はっきりと確かめておかなくては―― と言うように。

「ええ、勿論だわ」典子は動揺を隠して言った。

「本当に久しぶりなのだもの。お客様の部屋も整っているわ。とても嬉しい事だわ、泊まっていただけるなんて」早口で続けた。「それに、今が一年でも一番いい季節だもの」

「そう……」と茉莉はしばらく典子を見つめ声を低めた。

「それは嬉しいわね。あなたには訊きたい事がいろいろあるもの」「……」反射的に見張った目を典子はあてどなく逸らした。

――茉莉は許してくれていないのだ。まだ恨んでいるのだ――と思った。

よく知っていた。マリは感情の高ぶりや何かの衝迫を押し隠して冷静を装う時、ハスキーがかった声は―― 甘やかな響きを帯びる。典子はそれを密かに、マリの擬態ミミクリと名付けていた。

あの頃、その微妙な声色を感じ取ると、謎解きのヒントを見つけたように嬉しくなった。わざとはぐらかそうとする、マリの本心を掴めたから。

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