もともと、喜怒哀楽が少なく、怒ったり、悲しんだりするようなところを見せるような子供ではなかった。今までの千恵の状態を見て、重い病気を患っていることは気が付いていたに違いない。
合格発表は家族三人で見に行った。千恵がいちばん合否が気になっていた。私は、中学受験はしていないが、大学受験を三年も経験した。
自分の受験番号が壁に張り出されていた時の喜びや安堵感は今でも覚えている。合格発表の朝を迎えた。千恵も私も落ち着きがなく、そわそわしていた。
「そろそろ、発表見に行こうか」と私が言うと
「なんか、自分事のようにドキドキする」
と千恵は返答した。受験番号が書かれている大きな白い紙が壁に張り出されているのが見えた。千恵は、
「先に行って、見てきて」
見た目と違って、気が弱いところもあるようだ。娘が手に持っている受験票を見て、
「あったよ、ほら、あの受験番号、合格してた」
千恵は今にも泣き出しそうな顔をして、
「良かったね、彩ちゃん、よく頑張ったもんね、おめでとう」
いくつか受験した学校の中で希望する学校に合格することができた。どの家庭でも合格番号を背に本人の写真を撮っている、我が家もそれに倣った。
四月の入学式には、千恵も出席できそうだ。ただ、がん切除の手術は一カ月後で、どのくらい進行しているかは分からなかった。
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次回更新は8月21日(水)、16時の予定です。