冬の訪れと卒業式

食卓には、千恵専用のおかずと娘・私用の二種類のおかずが並んだこともあった。

千恵は、自分には薄味で野菜中心の油分が少なめのもの、娘と私には、適度の濃味で、カロリーが高く塩分や糖分が入っているものを用意してくれた。ある日、千恵が、

「私もパパや彩ちゃんと同じものが食べたい。いくら身体に良くないとは言ったって、私が食べているもの、味気ないの分かる? ちょっと食べてみてよ」

そう言って、恨めしそうに私たちを見ている。

「十分、美味しいと思うけど」

と言ったものの、確かに、塩分はほとんど入っていない、低カロリーで薄味な食事に、私は満足できなかった。私が、

「今日の夕飯は、天ぷらが食べたいな」

と言うと、娘と私には普通に油で揚げたものを、千恵は油を使わないノンフライヤーで温めた天ぷらを作った。私もノンフライヤーの天ぷらを食してみたが、物足りなかった。

それでも、千恵はできるだけ家族全員が同じ物を食するように時間と手間をかけてくれた。自分が食べられない料理を用意するのは辛かったことだと思う。

ある日の夕飯を餃子にすることにした。三人が各々、自分の食べたい具材を使い、自分で作る。

「私は、挽肉なしの椎茸と野菜たっぷり」

「私のは、挽肉たっぷり、ボリューム満点の餃子にするんだ」

千恵と娘の会話が聞こえる。各自が好きな具材を使って今晩のおかずを作る。何回も分けて食べられるようにとたくさん作った。

自分が食べたい物を自分で作るということが、どんなに楽しいことかを改めて感じた。何よりも、家族が顔を合わせて、会話しながら時間を過ごすことがとても貴重で大切なことであると改めて感じた。