ネムとジド
そういって、また木の実をさがしにいったが、そのうちにひとりがいった。
「あれ、なんだった? あのへんなの。ウサギじゃなかったよね」
「うん、なんだろう。鳥でもなかったね」
「もう少しみてみようよ」
木のかげにかくれてネムをみていると、白い犬が、やぶのなかから、そっとでてきた。
「犬?」
ひとりの子どもがつぶやくと、犬はまたやぶにもぐりこんだ。
子どもたちはかけよって、ネムをとりかこんだ。
「なあ、犬、飼ってんだろ」
「あの犬だろ。空を飛んでたのは」
ネムはあわてて首をよこにふったが、子どもたちはやぶのなかをのぞいて、もぐりこもうとした。でもジドはどこにかくれたのか、影も形もない。そこで木の枝や棒でやぶをつつくと、とつぜん大きなヘビがでてきたので、おどろいて逃げだした。
やがて村じゅうに、ネムの犬が空を飛ぶという噂がながれた。
その噂は、旦那の耳にもとどいた。
旦那は、はじめのうちはききながしていたが、なんどもきくうちに、たしかめないではいられなくなった。そこで畑をみまわりがてら、父さんにたずねた。
「ドーブル、おまえんとこで、犬を飼っているときいたが、ほんとうかね」父さんは青くなった。
「は、はい、さようでございます。なにしろ、息子があんなでございますから、学校にもいけませんし……せめてるすのあいだ、だれかといっしょにいさせたいと思いまして…… それに運動をさせて、いつか、はたらけるようにしたいので……ぜいたくとは思いましたが……」
しどろもどろにこたえると、旦那は、
「わしは、なにも悪いとはいっていない。ただ近頃、その犬が空を飛ぶときいたのでな、みたいと思っただけだ。で、どうだ、一度、その犬をつれてきて、みせてくれないか」
これには、父さんもおどろいた。
「犬が、空を飛ぶ、ですって!? そんなことなんて、あるもんですか。なにかのまちがいではありませんか」
これをきいた旦那は腹をたてて、皮の長靴をふみならして、どなった。
「わしがききまちがえた、というのか! その話がうそだというのなら、そんな犬は、すててしまえ。ただでさえ、息子がああだからと思って、おなさけであの家に住まわせてやっているのに、役立たずの犬のめんどうまで、わしにみさせるのか。それでも飼うというのなら、でていくがいい!」
父さんはまっさおになって家にかえると、ジドの頭をなでて、なげいた。