「僕は何も、君に説教しに来たんじゃない。僕なりに、君のことを理解しているつもりだ。君ならやれる。君なら大丈夫だ。僕をご覧よ。一度無くした会社を取り戻したんだ。僕より若い君には、無限の可能性がある。できないはずがない。

なあ、崇君、そろそろ前を向く時期が来たんじゃないか。君が野球をしているのを見たことがある。ほら、僕は君と同じ小学校に子どもを通わせていただろう。その参観日に、たまたまグラウンドを見ていたら、偶然君がマウンドに立ち、投手として、キャッチャーにボールを投げこんでいるところだったんだよ。

僕は野球をプレイしたことはあまりない。でも僕の通った大学は野球が有名でね。友達に応援を頼まれて球場にはよく行っていたし、君と同じビッグ・キャッツのファンだからさ。観戦歴は長いんだぜ。見る目には自信がある。大丈夫だ、君には確かに才能がある。それを腐らせるなんて勿体無いことだ。

無理に、とは言わない。でも、もう一度、野球をやってみてはどうだい?」

「ありがとうございます。やってみます……」

「その意気だ。さあ、食べよう。おっと、せっかくの新鮮な刺身に醤油をつけ過ぎちゃだめだぜ。尤も、君はアスリートだから、塩分をとった方がいいのかな。余計なお世話はいらないね。崇君……僕は、僕は、君とまた話せて、嬉しいよ」

その夜、僕たちはたくさんのことを話し合った。野球のこと、ボクシングのこと、音楽のこと。しげじさんは、合いの手を入れながら、にこにこと聞いてくれていた。話は尽きることがなかった。

僕は、きっと音楽から支えてもらい、ラジオからたくさんの言葉をもらっていたんだろう。そして、最後にしげじさんが、背中を押してくれた。

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