ある日、仕事で帰りが遅くなった時、オヤジは夜食として「チャーハン」を作ってくれていた。時間が遅かったため、オヤジは既に寝ていたが、ほんのりまだ温かいそのチャーハンは、優しく「おかえり」と声をかけてくれた。

作ってから一体どれほどの時間が経っていたのだろう。作りたてではないオヤジのチャーハンを食べるのは初めてかもしれない。気付くと頬を涙が伝っている。かけてあるラップを取ると、レタスがまだ微かにシャキシャキと動いている。いつもより焼豚が多いような気がする。

瓶ビールを冷蔵庫から出し、コップになみなみと注ぎ、一気に飲んだ。チャーハンが進む。また涙が出てきた。ビールが進む。涙が止まらない。思わず声を上げてしまった。

「あーーーー、なんだこれ、すげー美味い・・・」

仕事で疲れていたというのもあり、酔いが回るのが異常に早かった。

「悩んでいるのももう疲れたな」

ヨレヨレの頭だが、でもはっきりとそう思った。それから一週間後、初めてオヤジの厨房に足を踏み入れた。聖域に立ち入る瞬間、足が震えた。オヤジはああ見えて几帳面な男だ。

オイスターソースとラードの缶が綺麗に並べられ、油でベトベトにならないように常に綺麗に拭いているため、ピカピカだ。チャーハンの「決め手」となる、オヤジのこだわりのものだからだろう。

今日の営業一発目のチャーハンがオーダーされた。ほぼ毎日来る常連のご夫婦だ。中華鍋を振るうオヤジの姿に自分の姿が少し重なった気がした。

「とにかくオレなりにやって行こう」

オヤジは作りながら珍しく少し笑ったような気がした。

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