「社長さん、すみません。本部が融資担当に直接言ったみたいです。そして、融資担当の古賀が私に伺いも立てずに佐久部長に伝えたみたいです。申し訳ございません」

「支店長さんに伺いも立てずに、そんなことを話すことってあるのですか」

松葉はとても考えられない、と思って聞いてみた。

「いやぁ、参りました。支店長の権限って、最近は全くなくなったに等しいですよ。全ての案件が本部に稟議を上げなければなりません。下の者はそんな私を見ていますから、最近ではみんな本部の顔を見て仕事をするようになりました。やりにくくて仕方がないですよ」

支店長は本当に困った顔をしながら話を続けた。

「この件につきましては私もびっくりした有様で、不用意に従来のお取引の形態を崩すことなどあってはならない、と担当者に厳しく言っておきました」

「支店長さん、この借入は私どもがお願いしたものではございませんよ。銀行側が何としても借りてくれ、ということで始まったものです。金利だけ支払いしてもらえばありがたい、と言われて今日まできたものですよ。ご存じだったでしょう?」

「十分、分かっているつもりです。本部に確認してみます。本当に申し訳ございませんでした」    

「それでは、よろしくお願いします。これで失礼します。金曜日よろしくお願いします」

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次回更新は8月13日(火)、8時の予定です。

 

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