三 へんろ旅に当たっての心構え

参拝時のお経等

*懺悔文

これによって、今現在の意識状態の表明をします。

「我昔所造諸悪業 皆由無始貪瞋痴 従身語意之所生 一切我今皆懺悔」

内容は、記憶している過去現在一切の諸悪行の内容を自覚し、その対処を意識しますという事で、心に刻み込まれた一切諸悪行の記憶を清算します。具体的には三毒(貪(とん)・瞋(じん)・痴(ち)=貪り・怒り・無知)の反省と、心の整理・整頓です。償いは今からの生き方にあります。

*三帰依文

そして、そのために三帰の生き方を約束します。

三帰依とは仏・法・僧に対するもので、帰依仏、帰依法、帰依僧に生きる事です。最高の命(仏)を意識し、その教え(法)を信じ、僧に学び共に生きる事、その具体的な生き方の姿勢を確認し約束します。

三帰を生活の規範として、仏の教えである「戒」すなわち三密――身密(しんみつ)(身体の働き)・口密(くみつ)(言葉の働き)・意密(いみつ)(心の働き)を守るのです。

*十善戒

仏の教えにおいて悪とされる行いを戒めるもので、人と人との関係における戒めであり、自分の心に強く意識する生き方の内容。これを守るのが、十善戒修行です。

一 身体の働き【行動抑制】

①不殺生(ふせっしょう) =人を殺さない、命を大切にする、命を生かす。

②不偸盗(ふちゅうとう) =人の物を盗まない、盗むのでなく与える心を持つ、欲を持たない。

③不邪淫(ふじゃいん)=乱れた異性関係を持たない、色欲に溺れない。

二 言葉の働き【言葉抑制】

④不妄語(ふもうご)=噓をつかない、正直に話す。

⑤不綺語(ふきご)=よく考えて話す、意味不明の話をしない。

⑥不悪口(ふあっく)=温かい言葉を使う、暴力的な言葉を使わない、人を傷つけない言葉遣いをする。

⑦不両舌(ふりょうぜつ) =無責任な話をしない、その場だけの適当な話をしない、真実を話す。

三 心の働き【心の抑制】

⑧不慳貪(ふけんどん)=欲望に生きない、布施の心を持つ。

⑨不瞋恚(ふしんに)=大きな心を持ち怒らない、穏やかな心を大切にする。

⑩不邪見(ふじゃけん)=他を正しく理解し判断する、自己本位にならない、十人十色。

ここで不殺生について少し述べておきます。殺生というと、よく「全ての生命を殺すな」といわれる事がありますが、これは拡大解釈です。

命は自体の命の継続のために、他の命を取り込まなければ生きていけません。一つの命の死は、他の命の生となるのです。

これに対し、人と人との関係における不殺生戒は、生命の在り方を説いています。

不殺生すなわち人は人を殺してはならない、それは悉有仏性(しつうぶっしょう)の世界観で、生命が他の生命を奪う事は共有仏性を消滅させる事になるのです。