クリーム色の壁に一本のテープが貼り付けられるだけで、雰囲気が変わるのが分かる。気がつくと外はすっかり暗くなっており、時計を見ると七時前だった。もうそろそろ夕食の時間だ。

昼の懐石料理でおなかがいっぱいだったはずが、今はいつでも食べられる気がする。健一が言ったように、胃にもたれなかったからだろう。

ひと仕事終わったので、夕食の準備に取りかかる。といっても先ほど買ってきたコロッケを皿に載せ、キャベツを刻んで添えただけだ。コールスローはブルーの器に移し、レタスを周囲にあしらうと立派なサラダの出来上がり。

あとは、冷蔵庫に残してある煮物などを出したら十分。お気に入りのCDをセットして夕食タイム。食事中も健一との将来をいろいろ考えていると楽しい。来週が待ち遠しく感じられた。

4

一週間後、美紀は迎えに来た健一の車でマンションに向かった。

「ねえ、今日の食事などのお買い物はどこでするの」

「結構冷蔵庫にも残ったものがあるから、少しだけスーパーで買っていくことにしよう。ほら、この先に見える所がこの辺では大きなスーパーだ。今日は車だからあそこに行って、通常は家の近くの小ぶりのスーパーを利用するので良いと思うよ。僕もそうしているから」

「分かったわ。仰せの通り」美紀はふざけながら敬礼して見せた。

買物のあと、健一のマンションに向かった。

「ねえ、健一さんのマンションでは皆さんお付き合いはあるの?」

「さあ、どうかな。僕はほとんど仕事で出ているからあまり分からないな。ゴミ出しのときに挨拶するぐらいだよ。どこのマンションでも似たようなもんだと思うよ」

「うちのマンションはラウンドカフェがあったり、お花を世話するサークルがあったりして結構知り合える機会があるわ」

「そういえばそうだね。もしかしたら僕が気が付いていないだけかもしれないよ。一週間じゃ分からないかも知れないが、君が確認してみるのもいいかもしれないね」

マンションの駐車場に着くと、スーツケースとスーパーで買ったものをもって部屋に向かった。これまでも時々来ているのだが、今日はなんだか違った気分がする。

健一は、五階の角部屋に住んでいる。間取りは美紀のところと同じ2LDKだが、両面窓があるためとても明るく広く感じる。

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