私の横で今まで平静を装ってきたリハビリ医師が「立ったよ! 奇跡だ! 凄いよ!!」と叫び、そして下を向き泣いて下さった。

妻のことを我が身のように思って下さる彼の涙が嬉しくて嬉しくて。私の首に掛けているタオルは涙で更に重くなった。

紅に染まる夕陽が、まるで祝福してくれるように妻を優しく包み込んでくれた。この光景は生涯忘れない。

■2021年11月25日

午前は上半身をベッド上で起こす訓練を実施。5分実施すると血圧は下がる。多重重症者のリハビリは血圧との闘い。勝ち進んだ末に筋力との闘いがあることを学んだ。

午後は車椅子に乗り、リハビリ室内で右脚を軸に立ち上がる訓練と左脚の筋トレを実施した。左脚は地面にはまだ触れられないが、仰向け状態で2キロの重りをつけ歯を食い縛り、膝から下をまっすぐに上げる訓練を開始した。まだまだ筋力はゼロに近い。明日に続く感覚だけを身につけた。

妻が疲れ切った時に、リハビリ医師は車椅子を押して中庭に誘導してくれた。わずか2~3分の時間。妻は1カ月ぶりに外の空気に触れた。季節が冬の装いになったことを知った瞬間だった。

妻の投身は10月20日朝5時。まだ夏から秋に向かう時期で、今より暖かい気温。今のこの外気温だったら低体温症になっていたかもしれない。自然界の適切なうつろいに感謝した。

【前回の記事を読む】当たり前にできた「寝る、座る」が妻には地獄の苦しみに…毎日が限界との闘い

次回更新は7月22日(月)、16時の予定です。

 

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