【第三章】

9 マッサージ

■2021年11月26日

深夜2時に発生した脚の痛みは、今までの怪我による痛みとしびれに加え、リハビリで酷使する膝関節痛、足の甲の過重痛、骨盤の激しい痛みが交錯したものだった。

鎮痛剤を服用しても効かない。リハビリの先生から伝授頂いたマッサージを施し睡眠薬も追加で服用。朝陽を待ちわびた。

以前にも触れたが、太陽の光が消える夜は、静寂の中、痛みの世界に取り残されたような孤独感に襲われる様子だ。妻を何とか救い出してあげたい。

車椅子への移動は、健常者には簡単な動作。しかし、頭の上から足先まで、複数箇所を痛めた妻には重労働。準備から乗り込みまで、10分はかかる。

土日は2人で車椅子への移動訓練を実施。来週水曜からは動かなかった左脚を地面につける。動くかどうかはやってみないと分からない。重さに耐えられる力がどの程度あるか確認していく。

10 陽だまり

■2021年11月27日

今日も10分間かけて妻を車椅子に移動させることができた。左脚はやはり動かない。頭蓋骨の状態、骨盤や右脚の状態、血圧や肺の動き等を確認しながら、病院全体をゆっくり2人で散策した。

この部屋は洗濯室、ここはシャワールーム等と妻に観光案内するように、ゆっくりゆっくり説明して歩いた。2人だけで自力で歩く。入院してからずっと夢見ていた小さな、しかし、我々には大きな夢を果たすことができた。

いつも私は1人だけで売店に行く。しかし、今日は車椅子に乗る妻と2人で入る。妻の飲みたい物を自ら選んでもらった。入院してからはもちろんのこと、入院前も2人で買い物をしたことは、ここ数年なかったことかもしれない。こんな些細なことが叶わなかった。

本当に悪いことをしたと反省した。車椅子に長時間座っていると、血圧が下がり危険な状況に陥る場合もある。コンビニから部屋に戻り次第、ベッドに丁寧に戻した。

丁度そのタイミングで、1人の男性看護師がゼエゼエ言いながら部屋に飛び込んできた。聞けば、他の患者さんの作業を途中で切り上げ、走ってきたと言う。