【第四章】

9 味覚障害・嗅覚障害との闘い

■2022年1月5日

後ろから突然バットで殴られたような感覚がした。妻との何気ない会話の中で新たに味覚障害と嗅覚障害が判明した。一瞬で心が凍りついた。

入院中の飲食も含めて、退院した後私が作って食べさせていた食事や市販の飲み物も、全て何を食べているのか、何を飲んでいるのか分からない状態であったらしい。

自傷だから自分が悪いと、妻は自分を責めて一人心に秘めていた。それが悲しくて、悲しくて。孤独の世界に妻を再び置き去りにしていたことに泣いた。

飲食の喜びを失ってしまったら今後どうなるのか? 神様、これ以上、妻に試練を与えないでほしい。そう願うのが精一杯だった。

「明日も闘いたいが今は立ち上がれない」

■2022年1月6日

雪が舞い散る朝だった。病院に向けて出発準備中に私は悩んだ。病院の正面玄関のロータリーで車椅子の妻を降ろし、駐車して妻のもとに戻るまでの間、寒さから妻を守るために良い方法はあるのだろうか? 考えても分からない。

病院で聞いてみようとエンジンを掛けた。車椅子マークを付けた私の車が正面玄関に停車した瞬間、男性の係の方が「病院内にお連れします」と駆け寄って下さった。

帰りは女性スタッフが「奥様は私と院内に一緒にいますので車をお持ち頂ければ大丈夫です」と丁寧に案内して下さった。このような病院のサービスがあることは今日まで知らなかった。今更ながら気配り心配りに感謝申し上げた。

レントゲンを撮り脊髄担当医と面談した。「背骨に差し入れたボルトは定着し問題はない。ただし、痛みやしびれとは一生向き合うしかない」と改めて言われた。

リハビリ医師の診察では、「足先の様々な部分に反射確認器具を当てたが、アキレス腱から下の反射が特に弱い。末梢神経がやはり故障している。原因となる神経根を探すのはとても難しい」と説明を受けた。

入院時に親切に接して頂いた薬剤師と面談した。「嗅覚障害と味覚障害が発生した原因が投薬中の4種類の薬の中にないか、詳細に調査頂きたい」と依頼した。