藁をもつかむ思い。妻を助けるヒントが何か一つでも欲しい。
病院から出ると再び雪が降っていた。手のひらに舞い降りた一粒の雪の結晶を見つめ、私は祈った。
「妻を助けてあげてほしい」
10 高低差5センチとの闘い
■2022年1月7日
深夜、月を見上げながら昼間の出来事を振り返った。脊髄担当医が妻のレントゲン写真を指差し何やら説明していた。あの時私はパニックに陥り、脳が思考停止して医師の説明を理解できなかったのだ。少し落ち着いた今、改めて振り返り強い衝撃を覚えた。
医師から見せて頂いた骨盤のレントゲン写真では、痛む左脚の付け根が右よりも5センチ上にずれていた。左右に高低差が発生していた事実に目を疑った。
「こんなに骨がずれていては、人は歩けないはず。しかし妻は歩行訓練している」と当然の疑問を医師に打ち明けた。
医師の説明はある意味正しく、ある意味残酷に聞こえた。
「落下の衝撃です。あきらめるしかない。痛みやしびれと共存するしかない。あれだけの事故による多重負傷に対して今の医学では生命を守ることが限界です」
私にしてみれば「事故を起こした本人が悪い。管理すべき主人の責任だ」と変換して聞こえた。いやそうストレートに言われた方がまだ理解が早かったかもしれない。
朝陽とともに、頭の中を再度整理した。まずは、自分が信頼しているセカンドオピニオンを頼る。そうすれば妻が言いにくい下半身の痛みや、しびれの話も少しは言いやすいかもしれない。伝えやすい雰囲気を持つ医師を頼ってみようと心に決めた。
総合病院では正直、私は毎回、医師とぶつかっている。簡単には納得しない私と、次に並ぶ患者との間で医師も疲れる。その度に、妻は「申し訳ないです」と言う。私はいつも「気にするな。これは私自身の闘いだ」と諭した。
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本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。
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