【第三章】

11 蘇れ左脚

■2021年11月29日

今日は手術した人工腰椎をレントゲンで撮影した。夕方からはリハビリ訓練で右脚を点検。左脚は膝が微妙に数センチ動くが、その他は指先含めて全く動かない。腰から左脚の先までのどこかで神経が遮断し、しびれと痛みだけがある様子。

右脚同様に立ち上がれるように再生するかは未知の世界。医学書で左脚の神経の流れを学んだ。温める手法やマッサージ手法を上達させて何としても再生させたい。いや、絶対に蘇らせる。

■2021年11月30日

脊髄担当医の往診の際に、今後の予定に関して話があった。救急医療機関としては、通常は1カ月間が入院期間の目処。2カ月は異例に入る。

妻の入院は実際に1カ月を超えていた。ただし、自宅に帰っても日常生活はできない。リハビリ専門病院への転院しかあり得ない……と言われた。

医師が退室した後、妻は混乱して「お家に帰りたい。何としても帰りたい。でも、あなたは介護で毎日寝ていない。勤務先の社長さん含めてまわりの方に大きな迷惑をかけている。こんなひどい人間は生きていてはいけない」と精神不安定になり号泣した。

私は「人生は山あり谷あり。社長に感謝して、まわりの方に感謝して、今はどうすれば痛みが和らぎ、どうすれば左脚を蘇らせることができるのか、それだけ考えよう」と諭した。

連日夜中に脚をマッサージしていると、私自身が疲れて幻覚を見ることがある。陽の出とともに妻は昔のように笑顔で歩き始める。嬉しくて涙が溢れたところで我に返る。首を振って幻覚を断ち切る。何気ない普段の生活は何と幸せであったか。