手や足、オデコ、首、お尻。全ては親から授かった大切な宝物。一度壊してしまったら、そう簡単には蘇らない。心の中で全世界に叫んだ。「蘇れ!」と。

今は洞窟の暗闇の中だ。二人でどこかに光がないか、手探りで脱出口を探し続けている。時間をかけてでも妻を二足歩行に戻してあげたい。好きなごはんを自分で食べられるように戻してあげたい。トイレやお風呂は自分の行きたい時間に自由に行かせてあげたい。そう願った。

■2021年12月1日

昨夜は左脚の痛みが強くなり鎮痛剤も効かなかった。窓の外では深夜の暴風雨により風切音と雨粒の衝突音が一晩中響き、入院患者の心は一層暗くなった。私は少しでも痛みが軽減するようにと、マッサージをしながら朝を迎えた。

リハビリでは、右脚一本で車椅子から立ち上がり、直立不動を一分間維持してから着座する工程を何度も繰り返した。

一方で、トイレに行くほどの安定した筋力はまだない。尿管が1カ月以上接続されている。徐々に自力で排尿を調整する機能が消失していくことを学んだ。早く立ち上がりトイレにいくことが求められてきた。まだ簡単には立ち上がれない。

機能喪失と神経遮断が交錯する中での立ち上がり。大きな二つの壁が立ち塞がり、そのプレッシャーが妻を襲っていた。

■2021年12月2日

午前中は心理科医師の診療。午後は精神科医師の診察を受けた。精神科医師は妻を一人にした場合の自傷再発リスクを探るため、妻と2人だけで約1時間話して下さった。過去経緯含め丁寧に問診頂いた様子。