【前回の記事を読む】「死んではならぬ」10分おきに心拍数の異常を示すモニターの警報が鳴り続けた…
【第三章】
3 人工腰椎挿入手術
■2021年11月2日
昨日は回復基調だったが、鎮痛剤が効かなくなった。頭蓋骨周辺の痛みも激しく重なり、昨夜は眠れない夜を過ごした。睡眠不足で妻は衰弱。精神的にも弱り「一生治らないよね」とつぶやきながら妻は泣いた。
視覚の乱れで、部屋の中でも光は目につらいらしい。カーテンすら開けられない。しかし、昼は無理してでも、短時間だけはカーテンを最大限全開にして、昼と夜を再認識させた。看護師の助言に従い、恐怖心が高まる夜の睡眠をしっかりとらせるように努めた。
夕刻、個室に理学療法士が訪れた。この先生はリカバリールームから個室に移動した初期の段階から、ほぼ毎日様子を見にきてくれている。後にこの方のお陰で、妻は飛躍的に回復を果たすが、この時はまだ知る由もなかった。
先生はベッドで寝たきりの妻に対してスローテンポながら優しく丁寧に、「今動く両腕と右脚の筋力をまずは再生させましょう。左脚のリハビリは右脚が動き出してから、ゆっくり確実にやりますから大丈夫です」と言い、未来に灯をともして頂いた。
嬉しくて嬉しくて、涙がこぼれた。20代の若きリハビリ専門医の姿勢に頭が下がりつつ、発する言葉の一つ一つが妻の心を蘇らせていることに神秘的な力を感じた。
様々な医師や看護師との会話を通じ、潰れそうな弱い自分自身も奮い立たせた。皆様に感謝申し上げたい。
■2021年11月3日
昨夜は鎮痛剤と睡眠薬を計画通り21時に服用。しかし術後の発熱と痛みが再発し、深夜零時から苦しみ出し眠れない一夜を過ごした。
「暑い、暑い! 助けて!」と苦しむ妻の身体は、実はとても冷たく、本当に冷やしてよいのか、温めた方がよいのか理解できず悪戦苦闘。
30分おきに扇子であおぎ、脚の向きを変え、床ずれで痛痒い背中を隙間からさすった。その繰り返しで朝を迎えた。
今朝、看護師に聞くと、「手術後7日間は自身でも身体をコントロールできない。パニックに陥りやすいので、極力、暑いと言えば冷やす。寒いと言えば温める等、希望を叶えてあげてほしい」と助言を受けた。
朝6時、妻は疲労からまどろみ始めた。歩いて5分の院内売店に、妻の願いであるジュースを買いに行った(院内売店には衣料品は多いが願いの品はなかった)。
妻に自傷リスクがあることから、24時間介護の私にも外出禁止条件が付与されている。
10分程度ならと許しを得て久しぶりに外の空気を吸った。入院前には感じなかった朝の冷気を浴びて、季節はいつの間にか冬仕度に入っていることを感じた。