妻はおかゆしか食べられない。病院食のおかゆは、当人には飲み込めないと言う。引き続き持参したすり鉢で数分間すり続け、液状にしてから飲ませている。
変化があったことといえば、妻の1食がスプーン2口から4口になったこと。2口増えたことが嬉しくて嬉しくて。白湯の様なおかゆは命を繋ぐ栄養源だった。
「ジュースの味が分からない」という妻の言葉があったが、高熱のためだろうと受け流してしまった。味覚障害が発生していることまでは、この段階では気づかなかった。
■2021年11月4日
骨盤と左脚の痛みは変わらず、昨夜も苦しんだまま朝を迎えた。医師の往診時に痛みの予想期間を尋ねた。
「手術した腰椎の痛みは術後10日程度で減少しても、骨盤の痛みは骨折後1カ月、長いと数カ月続くかもしれない」と言われた。
痛みによる睡眠不足は思考能力の減退を招く。今夜こそは3時間だけでも寝させてあげたい。
■2021年11月5日
激痛と発熱で苦しみ睡眠薬も鎮痛剤も効かず、連日一睡もできないまま朝を迎えた。手術から1週間たち、初めて医師から、縫合した脇腹から背中までの全貌を見せて頂いた。
まるで鋭利な日本刀で背中から腰まで切られた様子。メスの後が鮮明に残り、変わり果てた妻の身体を直視して、改めて当人と義母に申し訳ないことをしたと泣いた。
なぜ投身前に見つけてあげられなかったのか? もっと会話を大切にすべきであったのでは? 自問自答は果てしなく続いた。猫型ロボットがいたら通夜の前に戻してあげたいと何度も悔やんだ。
細い身体にチタン製の腰椎とボルトが6本。代われるものなら全て代わってあげたいと何度も妻に語った。今夜から睡眠薬を強目に変えて頂くことになった。少しでも寝かせてあげたい。
ここ数日間妻は目を開けていない。かすかな会話だけが続く。何とか、睡眠を取らせ体力と気力をとり戻させてあげないと本当にまずい。
「家族の闘病記ピックアップ」の次回更新は11月19日(水)、19時の予定です。
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