あなたがいたから

再再発

入院する時は、「病院に行くから」と言うと「了解」と言っていた彼も、言葉がもう話せなくなっていた。又入院したばかりの頃は、両手を動かす事ができたのに、次第に右手が動かなくなり、又左手も動かなくなり、身体の寝返りも自分ではできなくなった。

又何とか目は開けていても、うつろで何かを伝えても、理解できているのかも分からない。又最後の一か月はもう目も開ける事も無かった。しかし耳は最後まで聞こえるという事を聞いたので、スマホのムービーで、彼が二十年しか住む事ができなかった家の中を録画して見せ、私からのメッセージを録音して聞かせた。

その頃の彼は、目が見えていたかは不明で、目を開けていても、何の画面かどうか分かっただろうかと、今でも結局分からない。しかしじっとムービーを見入る様に見て、音声も聞いていた。

その頃の私にはその位しか彼にやってあげる事が無かったのだ。何回も音声を聞かせ、ムービーも見せた。彼を助ける事もできず、彼の傍にいて毎日の様にただ見守る事しかできなかった。毎日が辛い。でも本人が一番辛いのだろうと思うと、自然と涙が出てくる。

入院してから一か月位経った頃には、目も開けなくなり「もう目も見えないのだろうか」そう思った。一つ一つの機能が壊れていくし、次第に弱っていく。【死】への階段を一つ一つ上っている様であった。そんな姿を見るのは本当に辛さしかない。良くなっていく事が無いのだから。でも彼はその様な中でも、頑張って生きようとしていた。

息子も仕事の合間に、時々見に来てくれていた。変わっていく彼の姿、次第に痩せ、壊れていく身体の様子を見ていると、「私は子供達にこの様に悲しい思いをさせたくないな」と思ったものだ。でも生きている限り【死】は免れない。「最後彼には楽に天国にいってほしい」そう毎日思ったものである。