【第三章】

7 急低下する血圧との闘い

■2021年11月22日

腰を守るコルセットが到着した。「妻をしっかり守ってくれよ」とその相棒に頼み、丁寧に触れてみた。リハビリ医師の介添えのもとで装着して、個室内で車椅子に座る訓練を実施した。

装着に5分。車椅子への移動が5分。コルセットを装着した妻が車椅子に座っていられるのはせいぜい2分が限界。ゼエゼエ言いながら必死に部屋を見渡した。

「うっすら見えるけど、こんな部屋だったのね……」と、1カ月経過して初めて部屋の中の雰囲気を認識した妻はつぶやいた。私は大きな前進が嬉しくて嬉しくて、涙が溢れた。

「よく頑張った。この部屋が今の私たちのお家だよ」とかすれるような声をひねり出すのが精一杯だった。

多重の重症患者として搬送された当初は、全く復帰目処が立たなかった妻に対して、今日は支援頂いてきた多くの看護師や配膳を頂くスタッフ、クリーンキーパーの方々が、代わる代わる部屋を訪れ、労いの言葉を含めて車椅子移動成功を祝って下さった。

改めて皆様に感謝申し上げます。

「ありがとうございました」

■2021年11月23日

妻の痛みは朝方まで続いたが、朝食でおかゆを食べた後は痛みが少し減った。ベッドでの起き上がり訓練は午前1回、午後1回。1回につき5分実施した。その都度、リハビリ医師から学んだマッサージを繰り返し実施した。

なぜか、この日は私自身が昼から吐き気がし、目が回り出した。しかし私ごときの話は心の物置に突っ込んだ。今はそんなことを考える暇はない。一晩中油汗を流しながら、自分の身体に向けて「細菌を食い殺せ」と命じた。