十四.お祭り騒ぎ
馬場祐樹の実習が始まった。
祐樹は全校集会で、既に注目の的となっていた。
「え! 保健室の先生なのに男?」
「カッコいい!」
あちらこちらで、ザワザワが止まらない。
この日から、保健室はお祭り騒ぎであった。引っきりなしに生徒がやってくる。ほとんどが祐樹目当てだ。
高校生の女子は、やたらメールアドレスを交換したがった。学校の規則でだめなことは分かっているはずだが、しつこく保健室までやってきた。
部活の時間はバスケ部の指導についたが、今度は体育館がお祭り騒ぎになる。
「キャ~、キャ~。こっち向いてください~」
「眩しくて、くらくらする」
「私、バスケ部に入ろうかな」と言い出す者までいるほどだった。
「フフフ……。馬場先生グッズでも発売しようかしら」
バーバラが嬉しそうにつぶやく。
取材当日。
バーバラが言っていた「一緒に取材したい人」
それは、馬場祐樹だった。
新聞部内で、ちょっとした揉めごとが起こる。
誰が取材に行くかという問題であった。
女子は勿論、祐樹目当てだ。
みんなが猛烈にアピールする。
「私、その記事書きたいです」
「私も!」
「はい! 私も!」
こんな調子だ。
とうとう部長が立ち上がり、低い声で話し始めた。
「分かった。じゃあ、こうしよう。持ち回りの順番でいうと、次は久保田だよね。取材は久保田、そこに写真の本田、イラストの山本の三名でどう?」
みんなは部長の意見に、しぶしぶ同意した。
クールな久保田麻衣なら、浮かれずに取材できると判断したのだろう。でも、麻衣の顔が妙に赤い。
「本日、取材で伺いました新聞部です!」
麻衣はいつにも増して早口だ。しかも声が上ずって、宇宙人みたいになっている。
「あ、お疲れ様。日高先生から聞いているよ」
窓辺に座っている祐樹が、優しく答える。
(本当に、カッコいい)
「あ、あの~。よろしくお願いします!」
麻衣の声は、上ずったままだ。
「こちらこそよろしく」
簡単な自己紹介を終えて取材を始めようとしたが、バーバラがいない。
果音が「バーバラは?」と聞いた。
「ああ、ダンス部に呼ばれて、体育館に行ったよ。先に取材を受けてって、頼まれた」
「え、怪我人ですか?」
怪我人なら、仕方ないと果音は思った。
「ううん。何か、急きょ振りつけを頼まれたって」
「はあ? 振りつけ?」
「意外でしょ? でも、先生、ダンス部出身だよ」
(ああ、どうりであのダンス……謎が解けた)
「馬場先生は何故そんなにバーバラのこと知っているの?」
「取材? もう始まっているのかな?」と祐樹が笑う。
「いえ、純粋に、私が知りたいだけです」
「分かった。話すよ。僕のこと、日高先生のこと」
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