第1章 山本果音
十二．スカウト
「は～い、注目。今日から正式に部員になった山本果音さん、主にイラストを担当してもらいます。よろしく。で、さっそくだけど新しいコーナーの件、考えてくれた？」
麻衣をはじめ、部員たちが渋い顔をしている。
「え！ みんな勘弁してよ。新しいコーナーは、みんなが知っているようで知らない記事が欲しいのよね」
眼鏡の男子が一言、「学校の怪談とか、やっちゃいます？」と言って撃沈。
麻衣は「もっと、しっかり考えろ！」と檄を飛ばす。
「イケメン特集は？」
「だめだめ、去年やってクレーム出まくったでしょう。基準は何だとか、もっと他にいるだろうとか」
「じゃあ、食堂の人気メニュー特集とか？」
「あ～それ、アンケート取る時間ないよ」
各々が意見を言う。
果音はみんながしっかり意見を言っていることに圧倒された。
「はいはい。う～ん、山本さんいきなりで悪いけど、何かない？ 学校内でみんなが知っているようで知らないこと」
「え！」
一瞬言葉に詰まった果音だったが、少し震える声で話し始めた。
「あ、あの～何かずれていたら、ごめんなさい。たとえば、学校で当たり前のように見かけるけど、名前も知らない先生や、職員の人とか、学校のために頑張ってくれている業者の人とかの特集ってどうですか」
「お～それな！」
首からカメラをかけた男子部員が声を上げる。
「地味じゃないか？」と、眼鏡男子。
「は？ 全然地味じゃないし」
麻衣が反論する。
「逆に、派手な記事って何よ」
果音が見たところ、どうも二人は犬猿の仲らしい。
「まあまあ、落ち着いて。毎回、取材できる人がいるってことだから、コーナーとしてはいいんじゃない？ イラストはOKだよね」
「は、はい。頑張ります！」
果音は、まるで運動部員のように大きな声で答えた。
「いい返事だね。で、最初の取材は誰にお願いする？ 時間あんまりないよ」
沈黙の中、皆の耳に果音の深呼吸が聞こえた。果音は深呼吸の後、勇気を振り絞ったように話を始めた。
「あの、保健室の先生とかは？ 実は、以前描いた先生のイラストもあるので……。だめですかね」
「あ！ それいい！」
部長の言葉の後、各々が
「いいね！」
「賛成！」
「一年なのにすごいね！」と声を上げる。
パチパチパチパチ……、拍手が起こる。
ものすごいスピードで、果音の部活初日が終わった。
（ハァ、緊張した。でも楽しかった。ここが、私の居場所になればいいな）
