十三.約束

放課後の校庭に人影はなく、国道沿いの木々がいつの間にか色づいていた。

もう秋か……。バーバラが感慨にふけっていたところへ、内線電話がかかってきた。

バーバラは慌てて受話器を取る。

「はい、保健室です」

「橋本です」

教頭からの内線だった。

「はい」

「実は、来月、教育実習生を受け入れることになりまして、先生に担当していただきたいのですが」

「え? 養護教諭志望ですか?」

バーバラの質問に呆れたのか、教頭は「当り前じゃないですか」と言う。

今まで、この学校の保健室で実習生を受け入れたことはほとんどない。だからつい、当たり前のことを聞いてしまったのだ。

そんなバーバラの考えをよそに、教頭は早口で話す。

「詳しいことは、また会議で。明日、本人が挨拶にくると言うので、取り急ぎ連絡しました。何分、よろしくお願いします」

「承知しました」

受話器を置いた後もしばらく考えてみるが、初めてのことで全くイメージが湧かない。

とにかく、本人に会ってから考えればいいかなと、イメージするのをやめた。次の日の放課後、バーバラは校長室に呼ばれた。昨日聞いた通り、実習生が挨拶にきたのだ。

「失礼します」

顔を上げたバーバラは、次の瞬間「あっ!」と、とんでもなく大きな声を出してしまった。

そこには、卒業生の馬場祐樹が立っていたのだ。そう、三年前、養護教諭になりたいと言って卒業していった馬場祐樹その人だった。

バーバラは「ば、ば、ばばさん!」と噛みまくった。

「先生、やけに『ば』が多いですよ」

校長が笑い、つられてバーバラも笑う。祐樹の顔からも笑みがこぼれる。簡単な挨拶と、日程を確認し、その日は解散となった。昇降口まで見送るバーバラに、祐樹は言う。

「先生、僕との約束、覚えていますか」

バーバラはすかさず「モチのロンだよ!」と返す。

「ハハハ……、相変わらずでよかった。一か月間、よろしくお願いします」

祐樹の希望に満ちた笑顔、そのキラキラした笑顔のおかげで三日間はごはんを食べずにいられそうだと、バーバラは思った。バーバラが保健室へ戻るとすぐに、果音が新聞部員と一緒に訪ねてきた。

取材依頼だと言う。

「え! 取材? どうしようかな~。高くつくよ」とバーバラは茶化したが、

「そういうのは結構ですから」と果音はわざと冷たく返す。

彼女らの会話を、赤い縁の眼鏡をかけた麻衣が不思議そうに聞いている。

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