第1章 山本果音
十五.ここへおいで
二月、ひらひらと雪が舞い降りる。
雪はまるで白い絨毯を敷いたように校庭を覆ってしまった。
吐く息は白く、寒さに震える日が続くと保健室は忙しくなる。
バーバラは、寒さに心まで縮こまってしまいがちな生徒と、毎日向き合う。
しかし、心配の種であった果音の姿は保健室にはない。もはや彼女は「保健室の主」ではなかった。
果音は毎日部活で忙しそうに走り回っている。言葉にはしないが、誰が見ても楽しそうだ。
最近では、ゴリラ先生ともすっかり打ち解け、冗談を言い合ったりしている。
果音はゴリラ先生の心配もよそに、高校生になっても新聞部で活躍したいと、希望に胸を膨らませているのだった。
相変わらずバーバラにはわざと冷たく接するのだが、前とは違って素敵な笑顔を見せてくれる。バーバラは果音の笑顔が何よりも嬉しい。
「お疲れ様」と囁くように、一片の雪がバーバラの肩に舞い降りた。
ああ、春はすぐそこまできているのだな。
バタバタとバーバラの時間は過ぎる。
学校の一年もあっという間に過ぎる。
そしてまた、春が巡ってきた。
保健室の窓から桜、レンギョウ、山、青空……春が見える。
バーバラにとって一番大変で、一番好きな季節がやってきたのだ。
トントン。誰かが、ドアをノックする。
「はーい、どうぞ」
初めて見る男子生徒だ。
不安そうな目でバーバラを見ている。
「大丈夫。ここへおいで」
あなたの居場所が見つかるまで。
第1章 完