第2章 兵藤(ひょうどう)澄江(すみえ)

私は今も、あの日を忘れない。

人がこんなにも恐ろしいものかと、思い知らされたあの日を……。

月日が経っても、決して忘れられない。

大人のいじめ、先生どうしのいじめ……。

一.生き甲斐

私の名前は兵藤澄江、御年四十三歳。

私は人を笑わせることが大好きな国語教師だ。授業は私のステージだと思っている。だから、授業案とネタ帳の両方が必要だ。言葉で笑わせ、笑わせることでいかに授業内容をより印象深く残せるか……。それをモットーに頑張ってきたつもりだ。

教壇に立ってはや二十年、婚期は逃したけれど、毎日が充実している。

縁談がなかった訳ではない。何人かの人とお見合いもしたし、結婚を前提につき合ったこともある。でも結婚にまでは至らない。決まって言われるのが、「君は学校の話と生徒の話しかしないね」だった。

自分でも分かっている。趣味やファッション。エンターテイメントや時事ネタなど……

話す内容はたくさんあるが、何故か学校や生徒の話に繋がってしまう。一種の職業病なのかもしれない。

他校の先生ともお見合いをしたけれど、今度は専門分野の話でお互いが疲れて、だめになる。結婚して円満な家庭を築いている先生を見ると、羨ましい反面、自分には無理だと諦めてしまう。

でも、いい。

それなりにいい人生だと思う。

「先生、今日の授業も期待しています!」

そう言ってくれる生徒のキラキラした目を見ると、俄然、力が湧いてくる。