二.素敵な人
四月、初めてレイナ先生を見た時、思わず見とれてしまった。
なんて綺麗な人なのだろう……、と。
色白で、すらっとしていて、髪も輝いていた。
二十六歳とまだ若く、前任校ではきっと手放したくない存在だったのでは、と思った。
小さい頃にイギリスで生活していただけあって、英語の発音ときたら、本当に映画でも観ているような心地よさだった。
生徒たちからも絶大な人気を得た。
保護者からも勿論、先生たちからも……。
何故、前任校で自ら異動を申し出たのかは分からないが、きっと色んな学校で実力を高めるためだと周りは理解していた。
女の私でも見とれてしまうのに、男の先生たちはどうだろう。
笑ってはいけないが、レイナ先生の前では皆、動きがぎこちない。
若くて綺麗で、申し分ないレイナ先生。今思えば、彼女には彼女なりの苦しみがあったのかもしれない。
日が経つにつれ、少し気になることはあった。彼女の口癖が「あの人、頭おかしい」だということが。
しかし、その時は知る由もなかった。常に注目を浴び、自分が主人公でいるために、邪魔者をターゲットにしてしまう人だということを。
そして私が、そのターゲットにされてしまったのだ。
三.寝耳に水
ある日の放課後、教頭に呼ばれた。
職員室横の会議室へ行くと、既に教頭が座っていた。教頭は開口一番、「どうして呼ばれたか分かっていますよね」と切り出した。
(何?)正直、思い当たる節がなかった。
「あ、いいえ。すみませんが、何のことや……」
教頭は私を睨みつけながら「胸に手を当てて、よく考えろ!」と突っぱねた。
その日は、何が何だかよく分からないまま家路についた。
何度考えても、何をしでかしたのか分からない。
私、頭がどうかしてしまったのだろうか。
記憶が飛んでしまったのだろうか。
分からない、分からない……。
【前回の記事を読む】「先生は癌にかかっていた」イケメン実習生の言葉に耳を疑う。私はそんなこと知らないで、元気のない先生を責めて、罵倒して…