第1章 山本果音
十三.約束
「取材、来月じゃだめかな?」
バーバラの言葉に、二人は「えっ、何故?」と驚いたような表情になる。
「うん。実は一緒に取材してもらいたい人がいるの。その人と一緒じゃだめかな?」
「今月無理なら、次回予告を入れて次の号からのスタートにするので、大丈夫です」と、麻衣がものすごいスピードで答え、その横で果音はホッと肩をなでおろすのだった。
「あ、それとバーバラ」
「うん? どうした、果音ちゃん」
果音は言いにくそうに、「えっと、『健康だより』のイラストですが、これからは、あまり時間かけられなくて。ごめんなさい。毎日、部活で忙しいです!」
バーバラはその言葉を聞いて、飛び上がるほど嬉しかった。
「それは、いいことだ!」
こう言いながらバーバラは微笑む。
その一言で果音とバーバラは全て通じ合えた。
果音にもとうとう「居場所」ができたのだ。
その後、果音の後任として、イガグリ頭の累が名乗りを上げた。
累のイラストは個性的で独特だ。でも、温かくて楽しい。
「『健康だより』のタッチ、変わりましたね」
「独特だけど、これはこれで味わい深くて好き」などと言ってくれるファンもいてバーバラは嬉しいのだった。
果音は最近、母親の小言が気にならなくなった。
家に帰ってくると、疲れがどっと出て、すぐに寝てしまうからだろう。
休みの日もゴロゴロ過ごせなくなった。
学校は休みでも、部活に休みはない。
「楽」と「楽しい」は同じ漢字だが、楽をしてゴロゴロ過ごしていた時は、全然楽しくなかった。
果音には、バタバタと忙しい今が「楽じゃないけど、楽しい」と感じられるのだ。
好きなものも増えた。「昭和の空間」が、癖が強い部員たちが好きだ。何より、イラストを描いて認められることが大好きだ。
そのことを誰よりも喜んでくれたのは、バーバラであった。
果音はようやく、バーバラに感謝の念を抱き始めていた。
言葉にはできないけれど、心ではもうとっくに言っていた。
あんなに反発したのに、傍に居てくれてありがとう。