第1章 山本(やまもと)果音(かのん)

十二.スカウト

「一年の山本果音さんだよね?」

「は、はい」

(え? 誰?)

果音が顔を向けると、そこには背が高く、赤い縁の眼鏡をかけた女子が立っていた。

彼女の印象を一言で表せば『外見はあまり気にしないタイプ』の人だ。

夕日に眼鏡のレンズが反射して目はよく見えないが、悪い人ではなさそうだ。

「私、二年の久保田麻衣。よろしく」

麻衣は早口で言う。

「あなたを、スカウトしたいと思って」

「はぁ。スカウトですか?」

麻衣はまた早口で言う。

「新聞部に、入ってもらいたくて」

「え? 新聞部?」

果音は実際、新聞部の部員を見るのも、初めてだった。部室がどこにあるかも分からなかった。果音はしどろもどろになりながら答える。

「私、新聞とか読まないし……。第一、部活とか興味ないので」

麻衣は両手を腰に当てながら答える。

「大丈夫、大丈夫。みんな最初はそう言うの。あなたにイラストを描いてもらいたくて、スカウトしているの」

「イラスト?」

その言葉を聞いた瞬間、合点がいった。

そうか! 『健康だより』のイラストを見て、私に会いにきてくれた!

これって、誰かに、認められたってこと?!

果音は正直なところ新聞部に何の興味もなかったが、嬉しかった。

果音はその足で、バーバラに報告しに行った。

 

果音が満面の笑みを浮かべながら保健室にやってきた。果音の笑顔を見たバーバラは思わず心が熱くなった。

「いい報告でもあるのかな?」

「あの~、私のイラストを見た新聞部の人から、スカウトされちゃいました」 

「新聞部? スカウト?」

バーバラの裏返った声に、果音はクスっと笑ったが、そのまま話を続けた。

「まだ、新聞部に入るか、どうかは分からないけど、これって誰かに認められたってことですよね。先生あの、ありがとう」

その瞬間、バーバラの胸が締めつけられ、高鳴った。

「私は何もしていない。ただ、絵心がなかったばかりに、果音ちゃんにイラストをお願いしただけだよ」

果音はニコニコとバーバラの言葉を聞いている。

「頑張っていると、誰かが見ていてくれるんだね」

バーバラがそう言うと、果音はただ小さくうなずいた。