一日中、新聞部のことが果音の頭から離れない。
新聞部というからには、新聞を作っているのだろう。それ以外、何も分からない。
放課後、果音は部室を探してみることにした。
確か、旧校舎三階の奥だと聞いたが、静まり返っていて、まるでお化け屋敷みたいだった。
(やっぱ、やめようかな。でも……)
果音はやっとの思いで、新聞部室にたどり着いた。
おんぼろの木のドアには、下手くそな字で「ニュースペーパー」と書かれた紙が貼ってある。(そこはあえて、新聞部でよくない?)そんなことを思いながら、ドアをノックしてみた。
コンコン……。返答はない。
果音は恐る恐るドアを開けた。
一瞬、人の気配を感じたが、すぐにドアを閉めてしまった。
何故か、足を踏み入れてはいけない気がしたのだ。
引き返そうとしたその時、呼び止める者がいた。
「ああ、新入部員ね」
そこには、ショートカットの似合う先輩らしき人が立っていた。
「は、はい」
「入って、入って。みんなを紹介するね」
(まずい! このままだと、部員にされてしまう)焦った果音は、
「あっ、いえ、見学させてください!」と伝えた。
「なーんだ、そうなの? 久保田はしっかりスカウトしたって言っていたのに。あ、でもここへきたってことは、見込みありだよね」
果音はやんわりと圧力を感じたが、「そ、そうですね」としか言いようがなかった。
ドアの向こうは、果音の想像をはるかに超えたミステリー空間だった。
まず、部員が十名ほどいたし、色々な役割ごとにデスクが置かれていた。印刷の機械やカメラ、イラスト用の道具まである。
「すごい!」
ドラマで見た、昭和の会社みたいだ。
ショートカットの先輩は部長の八田、果音をスカウトしにきた久保田は次期部長だと紹介された。二人とも素晴らしい文才の持ち主だということも知らされた。「昭和の空間」で部員たちの作業を見ながら、果音の心は高鳴った。
(私もここに居たい!)
見学を終え、正式な入部については後日返事をすると約束し、家路に着いた。
その晩、果音は遅くまで眠れなかった。
迷いに迷った末、果音は新聞部に入ることを決めた。
果音なりに悩み抜いた結果であった。やるからには頑張りたいし、役に立ちたいとも思った。
次の日の放課後、果音は部室へ向かう。
コンコン。やはり返答なし。
「失礼します」
果音はドアを開け、遠慮がちに部室に入る。
先輩たちはもう既に、バタバタと動いていた。部長と目が合う。
「山本さん、すぐに打ち合わせ始めるから、空いているところに座って」
(え? もう?)果音は「あ、はい」とだけ返事をする。
そして、訳が分からぬまま、打ち合わせに参加することになった。
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