その男とは、もう一か月ぐらい、夜ごとに無料アプリの画面越しに逢瀬を重ねた。

まるでお互いがずっと昔からの知り合いみたいに、その男が、「これは運命だね」と言うと、うわべでは打ち消しながらも、あたしは内心うれしかった。

「そんなわけない」、そう思いながらも、「彼としばらくつき合えて、一生の思い出ができればいい」などと、ふわふわの綿菓子のような夢を見ていた。

ある日、男が痺れを切らしたように言った。

「そろそろ僕たちの関係を先に進めないか。キミに会いたいんだ」

あたしが同意すると、「仕事が詰まっていて、夜中しか会えない」と彼は言う。

このときに気がつくべきだったと、今、思ってもあとの祭りだ。

男が指定してきたのは、駅前になにもない都心から外れた寂れた駅、それも夜の十一時だった。

十一時?

違和感を覚えながらも、彼に会ってみたい好奇心のほうがまさって、あたしは駅に降り立った。

今日は何度メールしても、返信はない。

(忙しいのかな)男は遅かった。

一瞬帰ろうかと思いながら、それでも一時間半、待ってしまった。

彼と話してメールした、一か月の時間があたしに彼を信用させたのだ。淡い期待をしていたあたしは、彼のささやく甘い言葉を内心では打ち消しながらも、会ったこともない彼に対して、このときすでに恋愛感情を持っていたことは否定しない。

最終電車の時間が過ぎ、もう帰る手段がなくなってから、彼は車で来た。黒いワゴン車の後部座席、疑いもせずに乗ってしまった。