心の中の杭

荷物といっても、布団代わりの寝袋と、服と下着が二、三枚、タオル数枚、あとは作業着と安全靴一足が、俺の全財産だった。

部屋に戻って、小一時間で荷物はまとまってしまった。

生まれてから十六年と少し、さしていい思いもしたことがなかった俺は、次に行こうとしているところに対しての期待も特になく、とりあえず野宿しないで済むことをラッキーと考えただけだった。

疲れてうたた寝してしまったのだろう。

体を揺さぶられて起こされた。

「あ、すみません、お願いします」

最後まで言い終わらないうちに、男は外の車に乗るように、顎で促した。ここでなんの疑問も持たなかった俺は、つくづく幼稚だったのだ。車の中で、話す言葉が見つからずに黙っていた。

男からも言葉をかけられないまま、車はすっかり暗くなった郊外の道を走った。町を二つ分通り過ぎたあたりで、やっと車が止まると、今まで住んでいた会社の寮より、さらに古い木造住宅の前だった。

(俺はどこまで連れてこられたのだろう)

不安になったが、それより恐怖心がまさって、なにも肝心なことを尋ねられなかった。

「今日は疲れただろうから、家の中にある物を食って寝ろ」ぶっきらぼうに男が言った。

中に入ると、床に無造作にパンだのおにぎりだのの食料と、ペットボトルの飲み物が置いてあった。お腹がペコペコだったので、盗むように急いでパンとおにぎり両方を上着の内側に隠した。

見回しても男はもういなかった。

俺は空腹を満たそうと、パンとおにぎりにかじりつき、ペットボトルのお茶で流し込んだ。お腹が満ちたので、家の中をキョロキョロ見回した。

まだ部屋も与えられていないし、できれば汗も流したかった。

ふと外を見ると、また車が到着して、よろよろと歩く女性を別の男が家に引き入れている。